Daiji256

スキルのかけ算

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スキルのかけ算という言葉をたびたび耳にするこの言葉を聞くたびああまたか複雑な感情を抱いてしまう正直この言葉は好きではあるがその使われ方には違和感がある

スキルという曖昧で捉えどころのないものをかけ算という多くの人が理解しやすいツールを使って一般化し定義しようとする試みとしては悪くないしかし残念ながらこの言葉がそうした意図で使われている例を少なくとも俺は見たことがないたいていは単なるバズワードとして使われているだけのように思える

もしかけ算という言葉を使うのであればその比喩に対して最低限の整合性を持たせるべきだろう定義を見たことがないのであれば自分で定義し考察しようと思うこの記事の目的はそれだ

これからの説明はこう定義されているこう定義すべきこの定義に従うべきといった話ではないくだらない提案のひとつとして受け取ってほしい

スキルの定義

まずスキルのかけ算を考える前にスキルそのものを定義する必要がある

ここではスキルを単一の能力を表すスカラー値eiとする単位スキルあるいはスキル成分とも呼べるそして人はn個の単位スキルからなるスキルセット𝒔を持つこの𝒔n次元ベクトルである

𝒔=(e1,e2,e3,,en)

ここでe1,e2,,enはそれぞれがこれ以上分解できない単位スキルであるRPGゲームにおける攻撃力防御力素早さのような個別の能力値をイメージするとよいだろうただし現実世界においてこれらの成分を完全に独立に定義することは困難である

スキルのたし算

まずはスキルのたし算について考えるスキルセットがベクトルであるためスキルセット同士のたし算は形式的には可能である

𝒔A+𝒔B=(eA,1+eB,1,eA,2+eB,2,,eA,n+eB,n)

しかしこのスキルのたし算現実世界においてはほとんど意味を持たないたとえば中学レベルの数学力を持つ人間が2人いたとして彼らのスキルセットを足しても高校レベルの数学の問題が解けるようにはならない

スキルのかけ算

本題であるスキルのかけ算について定義を試みる巷で言われる上位10%のスキルを2つ持てば上位1%になるといった短絡的なかけ算とはアプローチが異なる

ここではスキルのかけ算をスキルのn次元体積と考えスキルセット𝒔に含まれる各単位スキルの積として定義する1

product(𝒔)=k=1nek=e1×e2××en

product(𝒔)そのスキルセットを持つ個人が解決できる問題の範囲を意味する空間のn次元体積と解釈できる

この定義におけるかけ算相乗効果を期待するものではないあくまでも解決可能な問題のを示す指標である問題を解決することの価値は考慮されていない

なお上位10%のスキルを2つ持てば上位1%になる2つのスキルが完全に独立し相関がないと仮定すればこのスキルの積の定義においても成り立つ

スキルの最大値

スキルのたし算が現実的にあまり意味を持たない一方で複数のスキルセットを統合的に捉える上で有効な考え方があるそれがスキルセットの最大値である複数のスキルセット𝒔A,𝒔Bの最大値max(𝒔A,𝒔B)を次のように定義する2 3

max(𝒔A,𝒔B)=(max(eA,1,eB,1),,max(eA,n,eB,n))

あるチームにおいて各個人がスキルセット𝒔A,𝒔Bを持つとするこのときチーム全体として解決できる問題はmaxによって導かれるスキルセットで解決可能な問題と一致する互いのスキルを補完し合うことでより広範な問題に対応できるという解釈ができる

問題解決とスキルの充足条件

特定の問題を解決するのに必要なスキルセットを𝒓とするこの問題を解決するための条件はスキルセット𝒔𝒓のすべての成分以上であることであるつまり次のように表現できる

max(𝒓,𝒔)=𝒔

この条件が満たされればその問題は解決可能である

さらにこの考えを応用すれば特定の能力を持つ人がどれほどのスキルをカバーできるかを明確にできるたとえばAndroidアプリとiOSアプリの開発に必要なスキルセットをそれぞれ𝒓Android,𝒓iOSとすると両方の開発が可能な人は少なくともmax(𝒓Android,𝒓iOS)を満たすスキルセットを持つことになる

スキルのかけ算と価値

ここで再びスキルのかけ算に話を戻す元の文脈ではおそらくスキルのかけ算により個人の市場価値を高めようという話だったはずだ

ではこのスキルのかけ算がどのように価値に結びつくのかまずスキルセット𝒔を入力とし価値をスカラーで出力する関数value(𝒔)を考える

問題を解決することの価値v需要や供給などによって決まるためその難易度とは必ずしも一致しないある問題に必要なスキルセットを𝒓とすればその問題を解決する価値はv𝒓とするこのとき価値関数value(𝒔)は次のように定義できる

value(𝒔)=𝒔v𝒕dn𝒕

なぜ各単位スキルに係数をつけた単純な総和ではなく積分で定義するかというとスキル同士の組み合わせによるシナジーを考慮するためだ空間として扱うことでそれが可能になるこの積分はスキルセットによって解決可能な問題のそれぞれの問題の市場価値を掛け合わせ総計したものだと解釈できる

このときv𝒓が本質的に重要な値となる4v𝒓は需要や供給などの要因によって定まるたとえば需要が高く供給が少ないときに大きな値となる

需要や供給は時代によって変化するためv𝒓も時代によって変化する今現在価値が高くても将来それを維持できる保証はないかつては早く正確に計算するというスキルセットに価値があったしかし今では電卓を持つ小学生でも同等の成果を出せるためそのスキルはほとんど価値を持たない

2025年現在生成AIにより解決できる問題の領域が急速に広がっているこれは多くの人のスキルセットの価値が相対的に下がっているということでもあるこれまで価値があるとされてきたゼネラリスト的スキルセットは生成AIの進展により中途半端で無価値なものになりかねない

まとめ

最後に

数遊び言葉遊びに付き合ってくれてありがとうこの記事は単純な定義を目的としていたため多くのものを犠牲にしているその代わり簡単な算数で説明できるようになっている

この記事を読んでくだらないと思ってくれたのなら嬉しいそれはつまりスキルのかけ算という言葉を聞いた俺の気持ちに共感してくれたということだろうからもちろんこの記事を読んでためになったと思ってくれても嬉しい

スキルのかけ算という言葉はそのシンプルさゆえ多くの人に受け入れられやすい魅力があるしかしその言葉が持つ本来の意味合いや影響を説明できないのであればとても危険だと考える

もしスキルの掛け算という言葉が色々なスキルを身につけるために労力を割き不要なコレクションを集めるのを促すのであれば俺は止める方に加担する

このような言葉遊びだけでなく伸ばすスキルの選び方と生存戦略などをまとめた記事を書こうと思っているやる気がでれば

脚注

  1. スキルセット同士の内積も計算できるが本題から外れるため割愛する

  2. max(a,b)はスカラー値abのうち大きい方の値として定義されるmax(a,b)={aif abbif a<b

  3. max(𝒂,𝒃,𝒄,)は再帰的に計算できるmax(𝒂,𝒃,𝒄,)=max(𝒂,max(𝒃,𝒄,))

  4. もし全てのv1であればvalue(𝒔)=product(𝒔)となるつまりこの定義においてはスキルのかけ算が価値に直結すれば問題によらず解決することの価値は等しいことになる