物事の写り方
背景
視座・視野・視点といった言葉は、物事の捉え方を端的に表す比喩として使われることが多い。しかし最近では、これらの言葉の定義自体を説明することが目的化しているように感じる。
個人的には、視座・視野・視点を、物事を認識する過程を整理・説明するための比喩として活用したい。そして、認識の過程を構造的に把握し、意識的に制御できるような材料が欲しいと考えている。
同じような目的を持つ人はどれくらいいるだろうか。あるいは、目的を見失っている人はどのくらいいるのか。そのような漠然とした疑問が、この記事を書くきっかけとなった。
はじめに
「物事をどう認識するか」というテーマをシンプルに考えるため、「カメラで写真を撮る」という行為を比喩として用いる。本質的には異なる行為であっても、一定の共通点があると考えるからだ。そして、それを視座・視野・視点と対応させられれば有用だと感じている。
本記事では、視座・視野・視点という言葉を用いて、物事の捉え方をどのように整理できるかを考察する。これは個人の思考整理だけでなく、複数人による議論や合意形成の場においても役立つ可能性がある。認識のズレを言語化することで、円滑な対話を促進できるかもしれない。
写真と認識
カメラで写真を撮る
カメラで写真を撮る際、結果に影響を与える要素は大きく3つに分けられる。
1つ目はカメラ自体である。たとえば、フィルムカメラとデジタルカメラでは色の処理方法が異なり、それによって写真の色味も変わる。また、通常の一眼レフと魚眼レンズでは投影方式や画角が異なり、写る範囲や明瞭さにも違いが生じる。カメラが変われば、写真も変わる。
2つ目は撮影する位置。カメラが同じでも、被写体に近づけば細部が写り、遠ざかれば全体が写る。同じ対象でも、正面から撮るか裏側から撮るかで、写る内容が異なる。
3つ目はカメラの向き。同じカメラを同じ場所に置いたとしても、山に向ければ山が、海に向ければ海が写る。どこにレンズを向けるかが、写真の内容を大きく左右する。
これらの違いを意識すると、テレビ番組の撮影などもより具体的に理解できる。プロのカメラマンはマニュアル操作のカメラで被写体にピントを合わせ、タレント自身は広い範囲を捉えるアクションカメラを身に着ける。複数箇所からの撮影により、同じ人物でもさまざまな表情を記録できる。番組の裏側を映すために、あえてセット外にカメラを向けることもある。
このように、状況や目的に応じて、カメラ・位置・向きを柔軟に選ぶ必要がある。
人が物事を捉える
人が物事を認識する場合も、写真撮影と同様に、複数の要素が関係する。カメラのように単純ではないが、対応関係を意識することで整理できる。
1つ目は「人」そのものだ。たとえば、英語の映画を観るとして、英語が得意な人は内容を深く理解できるが、不得意な人には断片的にしか理解できない。あるいは、同じ風景を見ても、全体を把握する人と一部分に注目する人がいる。これは、個人の「視野」に相当する。
2つ目は「立場」だ。同じ裁判を見ても、弁護士と裁判官では見方が異なる。弁護士は依頼人の利益に焦点を当てる一方で、裁判官は全体のバランスや法律の適用に注目する。このような立場のことを、「視座」とも捉えられる。
3つ目は「注視する対象」だ。会議の場面でも、発言者の言葉に注目する人、資料に注目する人、参加者の表情や場の空気に意識を向ける人など、それぞれ異なる。注視する対象を言い換えれば「視点」となる。
比較
以下の表は、写真撮影と人の認識を対応づけて整理したものである。
人の認識は、写真撮影よりもはるかに複雑である。人間には多くの要因が影響し、しかもそれらは無意識のうちに変化する。そのため、視座・視野・視点を意識的に整理し、制御することには大きな意味がある。
| 写真の要素 | 認識における対応 | 説明 |
|---|---|---|
| カメラ | 人、視野 | 能力や特性によって、どう見えるか、何が見えるかが異なる |
| カメラの位置 | 立場、視座 | どの位置・立場から見るかによって、見えるもの・見方が変わる |
| カメラの向き | 注視先、視点 | どこに意識を向けるかによって、焦点となる情報が異なる |
まとめ
物事の認識は、「誰が」「どこから」「どこに向かって」見るかによって大きく異なる。それらは視座・視野・視点という形で分類できる。
どのように物事を捉えたいのかを意識し、これらの要素を調整することで、より適切な認識が可能となる。社会やチーム活動においても、視座・視野・視点を明確にすることは有効である。たとえば、議論の場で「どの立場から発言しているのか」「どの範囲を見ているのか」「何に注目しているのか」を明確にすることで、認識のズレを減らせる。
最後に
Xでしたこの投稿は、ある種の言葉遊びに対する反射的な違和感から生まれたものだ。自分の中で整理しておきたかったのだと思う。
